JAAS News第34号をお届けします。  
                                             シニア社会学会・事務局:2003.7.28.
1.第2回研究発表大会の概要報告(その1)
 6月21日早稲田大学で開催された当学会・第2回研究発表大会の概要を次号第35号・36号と3回に分けてご報告します。
(1)柴田博・桜美林大学教授の記念講演 「高齢者の地域活動と社会貢献活動」の概要
昨年4月に開かれた第2回の「世界高齢化会議」では、「サクセスフル・エイジング」という概念の中に、20年前の第1回会議の「生活の質」を中心とする考え方に加えて、新たに「社会貢献」(プロダクティビティ)という要素が採用された。
この会議は、4千人の各国代表が集まったが、このことは、高齢化問題が先進国だけではなく、現在、65歳以上の高齢者の8割が住んでいる発展途上国にとつても大きな問題である事を示している。
さて、欧米では、より良い人生「サクセスフル・エイジング」には、1)長寿、2)高い生活の質、3)社会貢献の三つの条件が必要と言われている。1)の長寿を保つという事は自明の事として、2番目の「生活の質」(クオリティ・オブ・ライフ)は、さらに次の四つの要素に分けられる。1番目は「日常の生活の基本となる動作が支障なく行えるかどうか」次は「自分の心身の健康状態にたいして自信をもてるかどうか」3番目は「生活環境」で、これには家族・友人など人的なもの、福祉などの社会的な支援、それに居住環境や街づくりなど物的なものが含まれる。
最後の4番目は「自分の人生や生活に対する満足度」。これは心理的かつ主観的なものだが「生活の質」にとっては、最も大切な要素とされている。この「生活の質」に関しては、前期高齢者には問題はあまりないが、75歳以上の後期高齢者になると問題が多くなる傾向が見られる。
「サクセスフル・エイジング」の最後の「社会貢献」(プロダクティビティ)であるが、これは1)被雇用、自営業などの有償労働、2)家事労働などに代表される無償労働、3)高齢者同士の相互扶助、4)ボランティア活動などに分けられる。わが国では、仕事をもつことが、健康の元とする考え方が根強く、何らかの社会的役割をもって、それを果たす達成感こそが、いわゆる「生きがい」であると考える傾向がある。この点で、人生の目的は「安息」にあり「労働」は苦役であり、人間の原罪であるとするキリスト教社会とは一線を画している。したがって、欧米においては、比較的最近になってから「有償労働」を含む「社会貢献」がサクセスフル・エイジングの構成要素になったという経緯なのである。 (大島洋・記)
        
(2)研究報告と分科会の概要
□雇用における年齢差別研究会・分科会報告(座長・清家篤副会長)
                             参加人員:清家座長除き6名。
検討した事項は次の通り、1.雇用や採用場面で年齢制限を実感した体験の有無・女性は子育て後の再就職ではほぼ100%体験する。最近は失業保険金請求が難関。女性には保険金支給率がゼロに近いのではないか。同時に社会保険の仕組み教育の必要を痛感する。男女ともに40歳以上の求職は絶望的とさえ言える。
2.研究報告書が出たが今後の展開は?
・実務担当者(人事・労政、組合、経営者団体、関係省庁)との意見交換を経て学会としての提案につなげる。・エイジレス指標を設定し、企業の格付けを試みる。(ただし、ドンキホーテになる可能性あり)
・定年廃止の前に65歳までの延長策を講ずるのが先。・採用の年齢制限禁止は早急に法制化すべき。
以上であるが、総合的な年齢制限禁止の前に上記の例のように個別のケースから始めるべきとの意見が大勢だった。清家座長は、次の研究会発足の場合は参加者自身が報告書を纏める体勢で進めたいとの意向である。       (鈴木正昭・記)

□ユニバーサル・デザイン・スタディ(UDS)分科会報告 
                             出席者:吉田健一UDS代表、他11名
主な内容:都営大江戸線の37駅についてユニバーサル・デザイン評価を行い、その結果を東京都交通局に報告、改善提案を行った。そのことについて分科会でパネルと写真を用いて報告があり、質疑応答があった。
参加者から大江戸線のユニバーサル・デザイン評価の努力と成果に賛辞が集まった。大江戸線の実績を活かして、次のテーマを模索中である。
同分科会の商品開発チームは引き続きコクヨ・アワードに提案を行う予定。阿部はるよ氏(介護の社会化を進める新潟県の会事務局長)から新潟県福祉自治センターの活動紹介があった。新潟県はユニバーサル・デザインの先進企業が多い。(伊豆山善夫・記)

□ 次世代育成支援研究会・分科会報告
次世代育成支援分科会では、望月幸代氏(ミズ総合企画代表)、袖井孝子氏(お茶の水女子大学教授)の両氏を司会者として迎え、冒頭榊原智子氏(読売新聞)、都築賢二氏(シニア社会学会事務局)、吉岡つとむ氏(厚生労働省少子化対策室長)、辻哲夫氏(厚生労働省官房長)の四氏による次世代育成支援に対する問題提起がなされた。
わが国において、高齢化対策はこれまで取り上げられてきたが、少子化対策は置き忘れられてきたのは紛れもない事実であり、核家族化が進み、家族の機能が弱体化してきている昨今、介護支援だけでなく子育て支援も同様に重要な問題である。少子化への危機感を持ち、社会で、そして共同体全体で子育てに取り組まなくてはならない局面にきている。母親だけが育児を担うのではなく、父親も育児に参加するといった企業人の子育てに対する意識改革の必要性や、長時間労働等働き方の見直し、職場と地域における安心且つ信頼できる子育てのための助け合いサービスシステムの構築や、働く母親のみならず、専業主婦のための支援も視野に入れた保育所の整備、また社会保障による次世代支援として、子どもがいなくても存続可能な社会の構築、さらに次世代育成推進法案について、企業における子育て支援の環境整備をはじめとした具体的行動計画作成義務等の行動計画について話し合われた。
シニア社会学会では、次世代のことを考え、次世代育成支援に向き合う責任を負う行動する学会として、シニアが地域における子育ての大いなる担い手になる可能性を追求し、次世代支援推進法案についてもひとつの社会運動として今後捉えていく必要があることが提案された。    (今井朋実・記)

(3)学生・院生交流会より
先日のシニア社会学会第2回大会の懇親会では、8名の学生会員の参加がありました。初対面の方もいらっしゃいましたので、それぞれ親睦を深めるよい機会となりました。本交流会に対するご意見やご希望を伺い(わざわざ交流会を設けなくてもメール等での意見交換や連絡でよいのではないか。交流会の目的を明確にする。研究分野が違うのでまとめるのが難しい。気楽に交流会の活動を続ければよい等々)、今後の活動に役立てたいと思っています。
どうぞこれからも皆様のご協力よろしくお願い致します。    (高橋昌子・記)

2.研究会例会報告=第6回次世代育成支援研究会(座長:沖藤典子理事)
7月10日(木)午後6時から生命保険文化センターで11名が参加して開催された。厚労省吉岡少子化対策室長への「次世代育成支援対策推進法案」(衆院通過)Q&A11、まとめの説明
.全5回の研究会を終えての中間まとめの話し合い(以下要旨)
・法案の「次世代育成支援地域協議会」は任意団体が申し出ることができるので、当研究会も「協議会」になれるかどうか検討する。
・義務教育の中でも介護も学校の教育実習に入っているので、保育も教育課程に取り入れるよう、文科省等に働きかけたらいい。
・当事者世代30代男性へ「男性の意識改革」アピールを。
・議論が進んできたので、今年度末までに具体的な提言を出しアピールできる
ようなスローガン作りを。
・「少子化」をテーマにして互いの考えを述べあい、「少子化」という用語について、当研究会での共通意識づくりが必要。
・初回で確認しあった7つのキーワードをそろそろ絞り込む必要がある。
・「育児の社会化」是か非かのスタンスの議論が必要である。
・若い人からのヒヤリング、「男の子育ての会」メンバーからのヒヤリングなども検討してはどうか。
・今回話し合ったことを中心に、後半期では提案書づくりをめざす。
次回は8/7(木)18時〜、テーマは子育て当事者からのヒヤリング。場所未定。提言作成へ向けて後半期の予定は、9/18、10/9、11/13、12/2、(全木曜日)。
11月は当学会長・木村尚三郎先生の講義「少子化」を。